感染の拡大が落ち着きを見せるなか、それでも不安は収まらないと彼はいう。
「この2年で何かが変わっちゃったわけでね。2020年はウイルスが怖かったでしょう? でもいまはそうじゃない。もちろんウイルスには気を使うけど、それが怖いわけじゃないんです」
「怖いのは人間ですよね。人間ってこんなだったっけ、どうしちゃったんだろうという戸惑いがすごくある。その不安の真っただ中です。だから気持ちは落ち着かないままでね。音楽に没頭する気分にもなれなくて、いま自分にできることはなんだろう、いま自分のやりたい音楽はなんだろうっていうことをずっと模索してるところです」
「こういった経験はいままでになかった。おそらく戦争中はこういった人たちがいっぱいいたと思うんです。あれよ、あれよという間に戦争が始まってしまったって。その時代の人の気持ちが少しわかるようになりましたね。でも社会を見てると、みんなそこまで心配してないんだろうなと。疑問だらけです。疑問と不安と恐怖が自分のなかでいっせいに芽生えてますよ」
デビュー50周年を経てなお、国内だけでなく海外のファンからも熱烈に支持され、多くのミュージシャンのリスペクトを集める。グラミー賞を受賞したニューヨークのインディーロックバンド、ヴァンパイア・ウィークエンドが彼の楽曲をサンプリングするなど、近年、世界的な再評価が進んでいる。
「最初は半信半疑だったんです。そうやって僕の音楽を引っぱりだして、聴いてくれる人が世界中にいるなんて。なぜかというと、ずっと自分勝手に音楽を作ってきたわけですよね。インターネットもなかった頃から。でもそういう人たちの存在が薄々わかってきた。いまでは世界の目を意識するようになってしまって困ってます(笑)」
「ヴァンパイア・ウィークエンドが2019年に僕の曲をサンプリングしたときはびっくりしました。以前から日本のシティーポップを掘り起こす海外のマニアが増えてるなという印象はありましたけど、彼らみたいな売れ線のグループがそういうことをやり出すとは思わなくて。タイトルが『2021』というのは黙示的だと思いましたね。2021年にこうやって彼らとのアナログシングルをリリースするのは、まったく不自然な流れではないです」