TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。映画『雨とあなたの物語』について。
* * *
この秋オープンした早稲田大学国際文学館(通称・村上春樹ライブラリー)で春樹さん自身が企画した朗読会「Authors Alive!~作家に会おう~」の初回は、春樹さんと小川洋子さんだった。
朗読後の質疑応答で、「小説を書くときに、人生経験ってどれくらい意味がありますか?」との問いに春樹さんはこう答えた。
「記憶が重なり、絡み合って想像力になるって僕は思っている」
『小川洋子のつくり方』で、堀江敏幸さんのインタビューに「私はそういう小さな手違いによって取り返しがつかなくなった燃えかすを、一生懸命拾い集めて書いている感じはあります」と小川さんは語っていた。
僕は映画『雨とあなたの物語』を観たばかりだった。小学生時代の「取り返しのつかない小さな手違い」が宝物となって心に残っていく。そんなストーリーだった。
大切にしてきた記憶にいる友人に会いたくて、主人公は手紙を出す。手紙は待たなければならない。その分思いが募る。郵便受けに落とされた封筒に相手の名前を見つけたときの心のときめき。
「スピード一辺倒の中で、手紙は大事」とチョ・ジンモ監督が言った。
「愛の要素には『待つ』ことが大切だから。手違いや誤解にしても、手紙がどんな気持ちで書かれたのかを描きたかった。行き違いを『実は』と真実を明らかにするのではない。時間をかけて手紙のやりとりをする当事者の心がどう揺れたのか、観客にはそこを考えて欲しい」
気づかなかったことを気づき、ほろ苦いからこそ思い出は残る。
僕が吉祥寺の小学校に通っていたある日、アメリカから帰国した転校生が来た。
髪が長くほっそりしていて、白いブラウスに紺のカーディガンを羽織っていたNさんは、休み時間ともなるとクラス中に囲まれ、「これ英語では何ていうの?」という質問攻めに鉛筆で丁寧に英語を書いていた。