この2つの宿題がなければ、恐らく息子が自分から調理をすることはなく、ひとりで食事の支度ができると知ることもなかったと思います。課題を自分流にアレンジしてこなしていく術は、将来彼が社会で生きていくために必要なことで、これがユニバーサルデザインの発想なのかもしれない、と思いました。
ユニバーサルデザインとは
息子が調理をする時にキッチンバサミを使いましたが、実は私自身も普段からキッチンバサミを愛用しています。まな板や包丁を使わずに、ウインナー、長ネギ、いんげんなどをチョキチョキとフライパンの中に切り落とし、コーンや玉子と合わせてチャーハンを作ったり、ネギやニラをハサミで切って市販の千切りキャベツとひき肉を混ぜて餃子の餡を作ったりします。餃子を作ると家族がとても喜ぶのですが、時間がかかるため以前は作れる日が限られていました。でもこの方法だと手間が半減し気軽に作れるのです。
ユニバーサルデザインは身近なところでも、たくさん見つけることができます。例えば、シャンプーのボトルの横にはギザギザの印がありますが、リンスにはありません。視覚に障害がある人はもちろん、シャワー中に目をつぶったままでも見分けることができ、多くの人にとって利用しやすくなっているのです。
私が知る限り、日本で最も古くから伝わるユニバーサルデザインは、5月の節句の頃によく見かける柏餅だと思います。葉の表面が上に巻いてあるのがこしあん、裏面が上に巻いてあるのが味噌あんです。柏の葉は表と裏の見た目や感触が全く違うので、餅を割らなくても中身を知ることができます。この伝統は江戸時代から続いているそうです。
ユニバーサルデザインの考え方は、障害のある人や高齢者だけでなく、すべての人が対象です。従来の方式だけにとらわれず、生活しやすくなるように考えて発展させていくことが、今後の社会にも望まれています。
※AERAオンライン限定記事