それでは、なぜ、今の年金世代は定額部分が480カ月に届いていないのか。これこそ今の50歳代以上に共通した現象だ。この世代が若いころは、20歳以上の大学生は年金制度への加入が義務付けられていなかったのだ。

 会社に入って厚生年金に加入して初めて公的年金制度に関わる、こんな人がほとんどだった。すると、ストレートに大学まで卒業しても約2年、浪人や留年をしたりすると3~4年、40年に足りなくなる。そんな人が60歳を過ぎて会社で働くと、それだけで480カ月に達するまで「経過的加算」が増えるのである。

 大学生が強制加入になったのは91年4月から。従って、これ以前に20歳になった大学生、つまり「71年4月1日以前」に生まれた人(今の50歳以上)に特有の問題だ。

 1カ月の定額単価は「1628円」(今年度の価格)。1年会社で働くと、それだけで約1万9500円(1628円×12カ月)年金が増える。例えば5年足りない人が60歳代で5年働けば、約9万7500円も増える計算だ。

 成り立ちからわかるように、「経過的加算」の1年分は国民年金に1年加入して獲得できる老齢基礎年金(約78万円÷40年)とほぼ同じだ。だから、40年に足りない人が定額部分が480カ月になるまで働いたとすると、満額の老齢基礎年金をもらうのと同じ効果が得られる。足りない分を「経過的加算」で穴埋めしたことになる。

 また、働いている間は厚生年金の保険料を納めているので、本来の老齢厚生年金(報酬比例部分)も増える。月給20万円の人が1年働くと約1万3100円、同30万円だと約1万9700円。「経過的加算」と合わせてダブルに増えるのだ。

「経過的加算」は「定額」ゆえに給料の低い人ほど恩恵が大きくなることも覚えておきたい。例えば、月給10万円の人が1年働くと、報酬比例部分は約6500円しか増えないのに、「経過的加算」は同じ1年で2万円近く増える。だから40年に足りない女性がパートで働いて厚生年金に加入する場合などに、一番効果が大きくなる。

 いずれにせよ、年金制度への加入期間が40年に足りない人には、ぜひ知っておいてほしい制度である。きっと実践し始めると、記者のように定期便を見るのが楽しくなるはずだ。(本誌・首藤由之)

週刊朝日  2021年12月3日号

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首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

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