簡単に年金を増やせるのに、なぜかほとんど知られていない制度がある。厚生年金の「経過的加算」がそれ。一定の条件の60歳以上の人が会社で働けば、それだけで1年で約2万円も年金が増えるのだ。しかも、今の50歳代以上ならほぼ全員が使えるという。年金世代、準備世代必読!
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「よし、予定どおり順調に増えている」
10月初旬、今年度の「ねんきん定期便」が自宅に届いたとき、記者はこう感じた。定期便のある部分の金額が昨年より約1万9400円も増えていたのだ。
「それにしても、1年でこんなに増えるとは……。すごい威力だ」
記者は62歳。出向元の会社の定年が数年前、60歳から65歳に延びたため、今も勤務を続けている。
金額が増えた定期便の「ある部分」とは、65歳以上の老齢厚生年金の欄の「経過的加算部分」(以下、経過的加算)と書かれているところだ。ここ数年の推移をみると、60歳になった19年はわずか「337円」だったのが、昨年20年は一気に「約1万5300円」になり、今年はそれが「約3万4700円」になった。確かにこの1年で2万円近く増えている。
実はこの「経過的加算」こそ、現在の50歳代、60歳代が60歳以降に年金額を一番簡単に増やせる方策なのだ。しかし、この制度、残念ながら一般人の間での知名度はほぼ「ゼロ」。いったい、「経過的加算」とは何なのか。
それを知るには年金の歴史を振り返る必要がある。
厚生年金ができたのは第2次世界大戦中の1944年にまでさかのぼる。戦後の混乱期を経て54年に法律が全面改正され、今に至る厚生年金の基礎ができた。老齢年金は「定額部分」と「所得比例部分(現在の報酬比例部分)」の2階建てという形ができたのだ。
その後、高度経済成長を経て年金額はどんどん上がっていき、再び86年に大改正を迎える。この改正では全員共通の「老齢基礎年金」が新設された。支給開始年齢は高齢化に合わせて60歳から65歳に引き上げられた。