実は、「ピーターの法則」を提唱した南カリフォルニア大学の教育学者、ローレンス・J・ピーター博士は、その対処法も書き遺しています。『ピーターの法則――創造的無能のすすめ』(ダイヤモンド社)という本の中で、組織の中で「無能レベル」に陥らないためには、「創造的無能を演出すること」が有効であるとアドバイスしているのです。本のタイトルの通りですね。
具体的に言えば、「適度な自分についての『疑惑』を組織の中で醸成し、自分が無能レベルに達する前に昇進を避け、昇進を断って、自分を有能レベルに留める」という方法です。自分にとって十分に力を発揮できるポジションを維持し、それ以上昇進しないよう、組織の中で定位置に留まることを勧めるわけです。
ピーター博士は、具体策も提示してくれています。「職場で共同の結婚祝いを出すのを断る」「職場公認のコーヒータイムにコーヒーを飲まない」「同僚が外食するときに自分だけは弁当を食べる」などなど。博士は言います。
「非社交的な奇行を組み合わせて用いることは、昇進の芽を未然に摘み取るのに、ちょうど適量の疑惑と不信を醸成するのに効果がある」
要するに、変わり者になれ、ということ。
サラリーマンにとって昇進は何よりのご褒美、それを自ら忌避するなんてとんでもない、と考える人もきっとおられるでしょう。しかしここで大事なのは、「社会的な死」を前にして、自分の意思によって、自らの「死に方」を決めるという態度です。この態度は、本書の第3章でご紹介した「ベクトル合わせ」にもつながります。自分の組織における「死に方」を決めるということは、「組織と個人の新しい関係」を創ることでもあるからです。
そうです、「死に方」とは実は、「生き方」に他ならないのです。