つまり「ポケベル」自体は新しくても、そこにある感情は昔と変わらない普遍的なものだということだ。秋元は流行りものが好きだが、そうやって奇をてらったようでも、じつはベタな世界を展開することが多い。それこそ、人生を「川の流れ」にたとえるようなド直球な詞を照れずに堂々と書けるのである。
続いて、94年には「愛が生まれた日」(藤谷美和子・大内義昭)がヒットした。彼はデュエットソングにこだわりがあるようで、前出「秋元流」にも「デュエット編」が設けられている。ニューミュージック編、女性アイドルポップス編など、6パターンあるうちのひとつだ。
デュエットは歌謡曲の「遊び」を感じさせるものであり、あえてJポップの時代にもそれを残そうとしたのだろう。テレビ番組の裏方で作られたグループ・野猿の最大のヒット曲「First impression」(野猿 feat.CA 2000年)は女性のメインボーカルと男性コーラスという組み合わせだが、こちらも「遊び」っぽい面白さがあった。
アイドル関連では、V6の「MUSIC FOR THE PEOPLE」(95年)やともさかりえの「エスカレーション」(96年)でそのデビューを華やかに演出。また、アイドル的人気を誇った猿岩石の2曲目以降を「高井良斉」名義で担当した。サードシングル「コンビニ」は隠れた名曲だ。
さらに、カリスマシンガーの売り出しにもひと役買っている。01年に「STARS」でデビューした中島美嘉だ。ドラマ「傷だらけのラブソング」の主題歌で、中島は劇中でも新人歌手を演じた。フィクションと現実をシンクロさせるという売り出し方は昔からあるとはいえ、これが成功したのは秋元のプロデューサー感覚によるところが大きい。
このほか、演歌に関しては08年の「海雪」(ジェロ)がある。初の黒人(ただし、母方の祖母は日本人)演歌歌手の出現として脚光を浴びた。意外性をヒットにつなげられたのは、1970年代に活躍したインド人演歌歌手・チャダを参考にしたのだろうか。低迷する演歌界には、明るいニュースとなった。