
もう一つ、日本に最先端工場を作っても、実はそれを使える最先端企業はほとんどないというのが悲しい現状だ。TSMCから見れば、「日本に最先端工場?何のために?」ということになる。「3級品半導体でも十分な自動車メーカーのために、10年前の技術の新工場を作るしかないけど、儲からないよね」と、ごねているうちに日本から破格の貢物が献上されたというところだろう。
つまり、本来はTSMC誘致の前に日本の電気や自動車産業のレベルアップ政策が先行すべきだったが、経産官僚にはそうした俯瞰的な視野はない。焦った挙げ句、TSMC誘致だけが目的化し、EVやグリーン産業などの成長分野では、自分たちの利権維持のために、いまだに世界に遅れる政策を採り続けている。
歪んだ嫌韓政策によるTSMC一辺倒政策と国内先端産業復活の総合的プランを欠いたままの半導体復活プラン。その行く末は、大体想像がつく。「世界最先端企業が日本を選んだ!」と無邪気に喜んでいる場合ではないのだ。
■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『官邸の暴走』(角川新書)など
※週刊朝日 2021年12月17日号