いろいろな声で「松本隆」の歌詞世界を楽しんだ。
ハナレグミのボーカルはブランケットのように温かく、「松本隆」の作品に出会ってミュージシャンを目指したという、さかいゆうはビリー・プレストンばりのキーボードとアレサ・フランクリン顔負けのソウルフルな唄声で「SWEET MEMORIES」を弾き語りして鳴りやまぬ喝采を浴び、今第一線で活躍する若いミュージシャンに「松本隆」が受け継がれ、確かな「ルーツ」になっていると感じた。
大団円ではっぴいえんどが登場、松本さんのドラムにからだを合わせていたら感涙で目の前のステージが霞み、霧に覆われたようになった。「靄ごしに起きぬけの露面電車が海を渡る」という、細野晴臣さんが歌う「風をあつめて」の歌詞世界が僕の心に広がった。
ライブ終了後、「今日は観客のみんなと風街パーティーだったね」と松本さんが客席に向かって手を振った。「次は55年かな。がんばりましょう」
文字通り「スィート・メモリーズ」の余韻の中、『松本隆 言葉の教室』に贈られた、詩人最果タヒさんの言葉を抱きしめた。
「どんな美しい言葉も、一人の人が人生の断片と呼べる瞬間に紡いだものなのだ、ということが、私には奇跡に思える」
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2021年12月17日号