アンナミラーズの店をあずきバーの井村屋が出していたのが意外だった。ドイツの民族衣装をモチーフにしたという白いブラウスにピンクなどの制服が可愛らしく、制服が着たくてアルバイトをする女友達がいた。かけもちでラジオ局に出入りする子も。電リク(電話リクエスト)の受付だった。彼女のフェアレディZで自由通りから青山通りを抜け、四谷にあった文化放送に行ったことがある。
教会を改築したという局舎の生スタジオには黒電話が何台も並び、オンエアのランプが灯(とも)るなり鳴りやまなくなった。
AOR全盛で、エア・サプライの『ロスト・イン・ラヴ』、アイズレー・ブラザーズ『ザット・レイディ』、ポール・デイヴィス『クール・ナイト』が次々にかかった。ラジオ局は初めてだった。
「ラジオってカッコいいでしょ」とその子が得意げに言った。
差し入れにアンナミラーズのパイを持って行ったらみんなキャーキャー喜んでくれた。
アンナミラーズ最後の高輪店は今年閉店した。あれほど流行った電リクだが、首都圏でその方式をレギュラーにしている局もほとんどなくなった。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年11月11日号