■亡くなった人とどう向き合うか
これまで寺本さんはさまざまな宗教をテーマに作品をつくってきた。理由をたずねると、背景には父親を早くに亡くしたことや、友人を病気で失ったことがあるという。
「どこの国でも、人って、何かを信じて、いつか来る死と向き合いながら生きている。ぼくは無宗教ですけれど、いつ死ぬか分からないなかで、自分には何ができるのか、どう生きるべきなのか、考えることが多い。あと、亡くなった人とどう向き合うべきなのか。そんなことを考えるきっかけとなることをメインに撮っています」
昔は行ったことのない国を訪ね歩いたが、最近は「深く知りたい」という気持ちが強くなり、同じ国を繰り返し訪れることが多いという。
「そこでいろいろな話を聞いたりする。そこで目にしたことを写す、というより、自分がどう感じたのか。それを写真に撮り、見て、考えたいと思いますね」
フィリピンで暮らすカトリック教徒の撮影にも打ち込み、19年にはマニラを舞台とした作品「墓場から揺り籠まで」で土門拳文化賞奨励賞を受賞した。
「ぼくが、特定の何かを信じる、ということは、この先もないと思うんですけれど、こういう選択肢もある、ということはは知っておきたい。旅の間、ずっとそんなことを考えているわけじゃないですけど(笑)」
今回は宗教に「食」を絡めて写したが、それを国内の食肉処理の様子と対比して見せたかった。しかし、工場に撮影をお願いしたものの、断られてしまった。
■ハンバーグの写真も
寺本さんは、頭に華やかな飾りをつけた牛の写真を見せながら、「これは、すごくいいなあ、と思って」と言う。
「食肉処理の現場では効率や清潔さがいちばん重要だと思うんです。でも、動物にも魂みたいなものがある、とすれば、こういうところも大事だよね、と思う」
写真展会場には、近所のスーパーの食肉売り場や、ハンバーグやチキンナゲットに加工された肉の写真も並ぶ。
「子どもが見たら、お肉とはこういうものかな、と思う身近な写真も入れて展示を構成するつもりです」
(アサヒカメラ 米倉昭仁)
【MEMO】寺本雅彦「命は循環し、魂は巡礼する」
オリンパスギャラリー東京 12月16日~12月27日