今回の安倍氏の台湾でのフォーラム出席は、政権を降りた後の本格的外交デビューになっています。安倍氏は元首相であっても今は一議員にすぎません。しかし、安倍氏がもたらす影響は大きいということが今回の件で明白になりました。

 中国との関係が深かった林芳正氏を外務大臣に据えた岸田政権の本格的な始動を控え、それに対する非常に強い違和感が安倍氏や安倍派の中にあり、安倍氏があえて踏み込んだ発言をしたのは、対外的な問題だけではなくて政権に対する牽制(けんせい)のメッセージもあるのでしょう。

 岸田政権としては、実際に政権運営をしていくうえで、北京オリンピックの外交的ボイコットの決断を迫られる重要な時期です。一議員であるはずの安倍氏の発言によって、今後の岸田外交の選択肢が狭められてしまった可能性があることは間違いありません。

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

AERA 2021年12月20日号

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