写真家・土田ヒロミさんの作品展「ウロボロスのゆくえ」が東京・品川のキヤノンギャラリー Sで開かれている。土田さんに聞いた。
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「ウロボロス」とは、古代ギリシャ語を語源とする言葉で、「自分の尾を飲み込むヘビ」のこと。円を描く姿は、「永遠の循環」を表す。
「ウロボロスというと、文学的な印象を受けるかもしれませんが、こんなハードな写真になりました」と、土田さんは言う。
製鉄所や石油精製プラント、鉱山、自動車工場――会場の壁にぐるりと並ぶのは日本の高度経済成長期を支えた基幹産業の写真だ。
一方、会場中央の壁面はパチンコ店やカーショップ、スーパーマーケットなど、消費の風景をとらえた写真が埋め尽くす。
「われわれの生活のなかで生産と消費が循環している。ところが、この2つの距離はあまりにも遠い。そんな日本の状況を表現するために、ウロボロスという言葉を使ったんです。デジタル化によって生産と消費の形態が急速に変化するなかで、いったい日本はどこへ行くんだろう、と」
武骨で巨大な生産設備と、毒々しい色合いのバブル期の商業施設。その力がぶつかり合いながらも、拮抗(きっこう)している。そんな印象を受けた。
■早すぎた「工場萌え」
今回の写真展は、主に1990年代に撮影した2つの作品、「産業考古学」と「Fake Scape(消費の風景)」を組み合わせたもの。
「『リアル』な生産設備と、『フェイク』みたいな感じで撮った消費の風景。それを、ただシリアスに見せるんじゃなくて、バカバカしいくらいに、ぱっと明るく見せたかった」と、土田さんは言う。
先に撮影がスタートしたのは「産業考古学」。きっかけは80年代に川崎市を中心とした京浜工業地帯を撮影したことだった。
「当時、ぼくは横浜に住んでいたんですけれど、工場地帯を車で通ると、中をのぞいてみたいな、と思ったんです。見てみたい、知りたい、という欲求がスタートだった」
最近は「工場萌え」という言葉が知られるようになり、工場地帯を撮り歩く人は珍しくない。しかし、40年前、カメラを手に大企業の工場周辺を歩き回る土田さんは不審者扱いされた。
「撮影していると、守衛さんが『何やっているんだ?』って、言ってくるから、ストレスがたまった。だから、中に入って撮らせてほしい、という単純な動機がありましたね」
しかし、個人ではなかなか撮影許可が下りない。そこで、写真雑誌「アサヒカメラ」の取材というかたちで写すことにした。
「工場内では広報担当者が同行しましたけれど、屋外に露出した設備で撮影を断られたところはほとんどなかったですね」