早く皿を洗いたいんだけどな。
しかし、まだ動く様子はない。
まさか……寝てる!?
しびれを切らして皿洗いを再開するやいなや、
「みて!」
こっちの動きに敏感である。
しかし、見て見て言うくせに、ちっとも何かをする気配がないではないか。
それとも私が見落としているのか??
すると次第に、ゆっくりと両足の足首がのびて爪先がぴーんとなった。
「みてた?」
たった、たったそれだけの動きを……?
「あしぴーんてなったね」
と言うと満足そうに笑う我が子。
やっぱりそこか!
いいかい、我が子よ。
大人になったら、人に「見て!」と言って注目を促したらば、何かしら、その注目に見合うものを見せる義務というものが、暗黙の了解のうちに生じるのだよ。
ゆくゆく、学んでゆくのだろうがね。
今の君のその無邪気さったら、尊いけどね。
君のパパがこれまで私に「見て!見て!」と言って見せて来たものは、足の裏に刺さった乾燥した米一粒。巻き爪。笑った瞬間に飛び出てぶら下がった鼻水。裏返しに着た服。などなどだよ。
こんな大人へのコースを真っ直ぐに歩んでいる気がしてならないよ。
いいかい、これら全てのパパの「見て!」に対する私のリアクションは無だよ。
文字にすると「……」だよ。
洗い物を続けていると
「みてみて!」
きたきた。赤いスーパーボールを一個握りしめて駆け寄ってきた。
見るよ。見るよ。
すると我が子は私の目の前でそのボールを片手に握りしめて、
「どっちに入っているでしょーか?」
……見ちゃったよ。しっかり見ちゃったから……。
「こっち」
「あたりー」
握っている方を指差すと、開いて見せ、笑う。
そしてもう一度、反対の手に握り直し、
「どっちでしょーうか」
「こっち」
「あたりー」
うん、だって母ちゃん、握るとこ見てるからね。
5回ほど繰り返すとつまらなそうに去って行った。