ロヒンギャのミョウチョウチョウさん(36)。東京入管に約1年4カ月収容された。支援者たちの助けを受けながら生活している(撮影/小山幸佑)
ロヒンギャのミョウチョウチョウさん(36)。東京入管に約1年4カ月収容された。支援者たちの助けを受けながら生活している(撮影/小山幸佑)
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 今年3月、スリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさんが、収容されていた名古屋入管で亡くなった。入管の実態とはいかなるものなのか。収容経験者たちの証言から浮かび上がったのは、人権意識に欠いた対応だった。AERA 2021年12月20日号から。

【写真】牛久入管などに3年4カ月近く収容されていたクルド人男性

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 閉ざされた「密室」で、何が起きているのか。

 全国に17カ所ある入管収容施設の本来の目的は、オーバーステイなどで在留資格のない外国人を送還するまでの間、一時収容することだ。しかし、収容者への対応は人権意識に欠き、国際基準と乖離(かいり)していると批判が高まっている。

■診察自体が容易でない

 今年3月にはスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が、収容先の名古屋入管で命を落とす悲劇が起きた。

 出入国在留管理庁(入管庁)の報告書によれば、ウィシュマさんは20年8月、ビザのオーバーステイで名古屋入管に収容された。翌21年1月中旬ごろから体調不良を訴え、同月末に「容態観察」のため監視カメラがある単独室に移された。だが、吐き気や手足のしびれなど体調は悪化し、繰り返し仮放免や外部病院での点滴や入院を求めたが受け入れられず、3月6日に搬送先の病院で死亡が確認された。

 なぜ、健康状態が悪化しても適切な治療を受けられないのか。指摘される理由の一つが、貧弱な医療体制だ。現在、常勤医師がいるのは東京入管だけ。それ以外は非常勤医師が輪番で診察し、専門外の病気も診る。常勤医師もいない中、収容施設内では医師の診察の機会を得ること自体が容易ではない。

 茨城県牛久市にある東日本入国管理センター(牛久入管)に、一昨年まで3年4カ月近く収容されていたクルド人男性(20代)も、証言する。

「何もしてくれなかった」

 男性は収容中、腹部が痛くなり入管職員に訴えた。だが、施設内の非常勤医師に診てもらえたのは2週間後。その時、医師に「外部の医師に診てもらったほうがいい」と言われ申請したが、外部の医師に診てもらえることは一度もなかった。

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