李琴峰さん(撮影/加藤夏子)
李琴峰さん(撮影/加藤夏子)

――彩華は、意思確認を経ずに生まれた姉・彩芽とのあいだに葛藤を抱えています。姉のほうも、そのことについて思うところがある人物として描かれています。意思確認をしていないぶん、両親は彩芽に対してすごく気を遣っているけれど、彩芽は天真爛漫に振る舞うところがあって、彩華はそれを波長が合わないと感じる。この合意出生制度においては、兄弟や姉妹がいるかということはわからないことになっていますよね。つまり、親は選べるけど、兄弟や姉妹は選べないことになっている。それによって二人のあいだにヒリヒリした関係が生じているように思いました。

李:なるほど。生まれないことを選ぶと、きょうだいもいなくなるから、選べると言えば選べるんですが、確かにきょうだいがいるかどうかという情報は与えられていないんですね。そもそも胎児は世界を認識していないから、家族がいるという情報を与えても、理解できないと思うんですよ。だから小説の中では生存難易度という数字だけを伝える形にしてあるんですけれど、それはこの制度の不完全性かもしれません。

――制度にはどうしても不完全性がつきまとうので、彩芽と彩華という姉妹にも、どうしても波長が合わないところが出てくるということですね。

李:そうですね。でも、この二人の関係性というのもまた、よくあるきょうだいのパターンじゃないかと思うんです。親が片方を依怙贔屓して、もう片方が「自分は愛されていない」と感じて、相手を恨む――そういう関係性は今の時代でもよくあることですよね。出生合意制度があることが、彩華と彩芽の子供時代の不和の原因にはなっていますけど、この制度がなくても、何か他のことがきっかけになって似たようなことは生じると思うんです。だから、二人の関係性はごく普通のものだし、この小説の登場人物は、そんなに特別な人間はいないと思うんです。合意出生制度があったらどうなるか。そのシミュレーションが、この小説の一番の読みどころじゃないかなと思います。

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