■トトロがいる森

 さて、次に向かったのは、メインゲートから一番離れた公園南側の「どんどこ森」エリア。「どんどこ」とは、「となりのトトロ」でサツキとメイの姉妹がトトロと一緒にまいた種の発芽を願って踊る「どんどこ踊り」から来ているそう。

 緩やかな坂を越えて約20分。池のほとりに、見覚えのある建物が見えてきた。

「となりのトトロ」でサツキとメイたち草壁一家が暮らした「サツキとメイの家」だ。05年の「愛・地球博」のパビリオンとして建てられたものを、リニューアルしてジブリパークに引き継がれ公開されている。

 家の中は台所や風呂、お父さんの書斎など、作中に登場するシーンがそのまま再現された作り込み。棚やたんすを開けると一家の皿や服が並び、サツキの勉強机も再現されている。

 この日は、午後から地元の人たちも招待された。幼稚園に通う娘と訪れた長久手市の女性(37)は、

「トトロが大好きなので、つい感情移入します。ジブリ作品の温かい感じが大好きです。子どもも喜んでいて、また来ます」

 と笑顔で話した。

 家の裏手は「どんどこ森」。

 頂上まで続く長い階段を上ると、5.2メートルの「トトロ」の形をした木製遊具「どんどこ堂」がある。体は土壁でできていて、本物さながらの迫力。

 残念ながら内部に入って遊べるのは、小学生以下の子どもだけ。内覧会でも内部の撮影は禁止で、詳細は「秘密」だという。

■甘酸っぱい「青春の丘」

 帰りは、どんどこ堂のすぐ近くから発車するスロープカー「どんどこ号」で下る。ベビーカーや車椅子を利用する人たちが優先となるが、一般の人でも乗車は可能。実はこの車両、昭和30~40年代に名古屋市を走った路面電車がモチーフだとか。鉄道ファンも注目だ。

 ジブリパークの見どころは、これで終わりではない。

 メインゲート近くには、「青春の丘」がある。ジブリ作品の中でも、甘酸っぱい青春ストーリーのファンにはたまらないエリアとなっている。

 そこに建てられているのが、3階建ての洋館「地球屋」。「耳をすませば」で主人公の中学生・月島雫がに導かれて辿り着いたアンティークショップだ。

 2階から中に入ると、作品に登場するエメラルドグリーンの眼をした、猫の男爵「バロン」が出迎えてくれる。そこかしこで、「かわいい!」の声が。室内には、映画の世界観に合わせるためイギリスはじめ世界中から集めてきたというアンティークの家具や機械仕掛けのからくり時計、人形や木馬なども置かれていて、見ているだけで楽しい。

■公園内には「忘れ物」も

 細い階段で1階に下りると、バイオリン工房。雫が恋をする、同級生の天沢聖司がバイオリンをつくっていた工房だ。

 机の上にはつくりかけのバイオリンが置かれ、床には木くずが敷いてある。木くずは、映画の舞台とされる、東京・聖蹟桜ケ丘に実在するバイオリン工房で出たものだという。

 つい10分ほど前まで人がいた形跡──。パークのスタッフによれば、そんな雰囲気を表現しているという。

「めっちゃすごい、やばいです。ディテールの細かさがすごい」

 同行したジブリファンの女性カメラマンが興奮気味に話す。

 地球屋のすぐそばには、「猫の恩返し」に登場する「猫の事務所」が再現されている。

 主人公の女子高校生・吉岡ハルが猫のサイズになるという設定を受け、事務所の大きさもミニチュアサイズ。中には入れないが、小窓から覗き込むと、バロンと大猫のムタがソファでゆったりとくつろいでいる様子を見ることができる。

 広い公園内にはちょっとした仕掛けもある。各所に置かれたベンチには、ジブリ作品に登場するキャラクターが忘れ物をしたという設定で、様々な「忘れ物」のオブジェが置かれている。

 ジブリパークには、遊園地にあるジェットコースターのような派手なアトラクションや乗り物は一切ない。

 見て、触って、体験して、感じる──。それが、ジブリパークの楽しみ方だ。さあ、ジブリの世界に。トトロやカオナシが待っている。(編集部・野村昌二)

AERA 2022年11月7日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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