「私は人間の言葉こそしゃべらないけれど、君が何を考えているかは、全てわかる読心術を身につけているのよ。雨の日などは外で用をたすのは体が濡れるから家の中でやっちゃうので、君はあたしのことをションベンたれとか、ウンコ野良なんて口汚くののしるけれど、結局、私のそそうを処理するのは君の奥さんじゃないの。如何にも私を飼ってやっている。誰がおでんのご飯代を稼いでいるの? なんて私に面と向かってえらそうに言うけれど、ご飯を作っているのは奥さんで、君は目玉焼きひとつも作れないじゃない。ワーワー言うだけで、実に見苦しいわよ。言っとくけど、アタシは、この家に住んであげているのよ。私を飼っているなんて私を拘束するような言い方だけは止めて頂きたい。何かあると、すぐ死んだタマは天才だったけど、おでんは劣等生だね、と言うけれど、あたしから見ると、君こそ劣等生だわ。ちょっと絵が描けるぐらいで威張るんじゃないわよ。何ひとつ生活力もないくせに。どうせ、このエッセイの挿絵にだって私の絵じゃなく、タマの絵を載せるにきまっているんだから」

 そう、担編さんから「絵もお願い」と言われた時、タマの絵を載っけようと思ったことは確かだった。

「私、君の心を全部読んでるんだから、何が『シン・老人』なのよ」

●おでんの自己紹介

 私おでんは、野良の未婚の両親の間に生まれた3人姉妹のひとりです。野良の母親がこのエッセイを書いているシン・老人の事務所の庭に住んでいた時、事務所の隣の家の庭を棲家にしていたやはり野良のオスと母の間に生まれた子供が私たち3人だったのです。母親は私たちを事務所の中で出産して、そのまま野良の習性で、屋外を拠点にして室内には入ってきませんでした。

 だから私たち3人の姉妹はシン・老人と事務所のスタッフ2人によって育てられました。隣の家の庭に住む父親はある日病死したのでその子供の私たちは父親との対面はなかったのです。母親は時々私たちの様子を庭から眺めに来ましたが、無事に人間どもに育てられていることに安心していました。

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