では、東急電鉄車内で異変が起こった場合、どう対応するのか?
「お客様から乗務員に『何号車で何かあった』という通報があれば、それを車掌が指令所に連絡して、画像を確認してもらい、状況を車掌や運転手に伝える、という流れになると思います」(奥野さん)
ただ、10月の京王線の事件では複数の乗客が非常通報ボタンを押したものの、それが精いっぱいで、その横に設置されたマイクに応答した乗客はいなかったという。
■国交省は柔軟な対策を提案
これまでに発生した車内傷害事件を検証し、対応策をまとめた国交省鉄道局危機管理室の本村龍平室長は、乗客の被害回避・軽減対策として「指令を含む関係者間のリアルタイムの情報共有」の大切を語る。
「緊急事態が起こった際、乗務員と、列車をコントロールする指令所がリアルタイムで情報を共有し、発生した事案にどう対応するか、判断できることが重要となります」
しかし、「これが理想」としながらも、「それをすぐに実施してもらうのは現実的ではない」とも言い、こう続ける。
「これからの新造車両については、防犯カメラの設置を必須にしたいと思っています。しかし、情報共有のシステムまで義務化するのは現実的ではありません。設置費用がかかりますし、それなりの期間も必要となります。通信会社の回線を利用して映像を指令に送るにしてもランニングコストを考慮しなくてはなりません」(本村さん)
京王線車内で傷害事件を起こした服部恭太容疑者(25)は「小田急線の事件を参考にした」などと供述。さらなる模倣犯が現れないともかぎらない。本村さんは情報共有のネットワークシステムづくりについて、柔軟に検討することを提案する。
「車内防犯カメラだけが対応への『解』とは考えていません。例えば、スマホやタブレット端末などを使って、乗務員が車内の状況を指令所に送る、とか。安価で簡便な方法を模索して、すみやかに実効性のある対策を立てていきたい」(本村さん)
■専門家が語る車内防犯カメラの課題
これまで、鉄道各社は主に痴漢対策のために防犯カメラの設置を進めてきたが、乗客の無差別襲撃事件をきっかけに、想定外の防犯カメラ運用を迫られている。今回のアンケートを通じて、同様な事件にどう対応すべきか、悩む各社の様子が伝わってきた。
長年、防犯対策について研究してきた筑波大学システム情報系社会工学域の雨宮護准教授は、車内防犯カメラの意義や課題について、こう語る。
「車内のカメラを中心としたシステム構築は、緊急時の迅速な情報収集に有効です」