2009年、同社は警視庁などの要請に応じるかたちで痴漢犯罪が多発していた埼京線の車両で防犯カメラの試験運用を開始。やがて首都圏全体に広がった。その動きに関東を中心とする私鉄各社が追従した。
つまり、通勤車両の防犯カメラは、痴漢被害や痴漢冤罪被害、車内暴力などを抑止するともに、その行為を記録し、事後の処理に活用するために設けられてきた。そのため、車内防犯カメラの多くが「録画専用」なのだ。
一部ではあるが、運転台で防犯カメラの映像を確認できる車両もある。JR東日本が山手線や横須賀・総武快速線に投入した最新型のE235系電車もその1つ。しかし、その防犯カメラの用途も「録画が基本」と、高野さんは言う。
■リアルタイムの車内映像確認はほぼない
とはいえ、運転台でリアルタイムに防犯カメラの映像を確認できるのであれば、それは何のために利用されているのか。
西武鉄道では01年、ワンマン運転に対応するため、4000系電車に車内防犯カメラを設置し、運転台にモニター機能をつけ、長年にわたり運用してきた。
「運転台で車内防犯カメラの映像を見ることはできます。しかし、運転中に映像を確認するのは危険なので、そのような運用はしておりません。例えば、お客様が非常通報ボタンを押したとき、いったん停車して映像を確認するなど、基本的には録画用です」(西武鉄道広報部・渡辺かなさん)
実は、8月6日に小田急線車内傷害事件が発生した5000形電車にも防犯カメラの映像を運転台で確認できる機能がついていた。事件発生時、列車の乗務員は防犯カメラの映像をどのように活用したのか。小田急電鉄の報道担当者にたずねると、「乗務員の対応の詳細については捜査資料としてすべて警察に提出しております」と回答した。
■東急電鉄は指令所が映像確認
一方、他社の通勤車両とは異なり、車内防犯カメラの映像を運輸指令所でモニターしているのが東急電鉄だ。映像はソフトバンクの通信回線を利用して送る仕組みで、同社は20年7月に全車両への防犯カメラの設置を完了した(こどもの国線を除く)。
ただし、運転手や車掌など、乗務員は車内防犯カメラの映像を見ることができない。
「乗客のみなさまのプライバシー保護の観点から映像を見られるのは運輸指令所と、権限を持っている本社の人間の一部だけです」(東急電鉄広報グループ・奥野裕真さん)
ちなみに、防犯カメラで撮影した乗客のプライバシー保護については、東急電鉄だけでなく、鉄道各社は非常に気を使っている。