今年相次いだ列車内での無差別襲撃事件は、社会に大きな衝撃を与えた。容疑者はいずれも特急や快速急行など、停車駅の少ない列車を狙い、凶行に及んだ。逃げ場のない「走る密室」の中で、どうやって乗客の安全を守るのか。その対策の1つが車両内に設けた防犯カメラの活用だ。国土交通省は車両新造時や大規模改修時に車内防犯カメラの設置を盛り込んだ対策をまとめ、12月14日、設置基準などを議題に鉄道事業者と初会合を開いた。防犯カメラの設置は凶行への防御策となるのか。
【独自】14の鉄道事業者に行った防犯カメラ設置のアンケート結果はこちら
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国交省が防犯カメラの必要性を特に重要視するようになったのは、10月31日夜に発生した京王線内刺傷事件によってだ。
京王線国領駅に緊急停車した特急列車。しかし、車両のドアは閉じたまま。乗客たちは窓のすき間から次々と脱出し、懸命にホームドアを乗り越えて逃げていく――そんな異様な光景がSNSで拡散、その後、テレビで繰り返し映し出された。
なぜ、このような事態となったのか。
まず、事件発生時、列車の運転手と車掌は車内で何が起こっているか、十分に把握できなかった。それが遠因となり、停車時にホームと列車の位置がズレてしまい、ドアが開かなかった。それゆえ乗客らは車両の窓から脱出を試みたのだ。
また、この列車には防犯カメラが設置されていなかったため、「乗務員は事態を把握できなかった」とする報道もあったが、それは間違いだ。
というのも京王電鉄よると、京王線を走行する728両中、122両に防犯カメラが設置されているが、京王電鉄の車内防犯カメラはすべて「録画専用」で、撮影した映像を運転手や車掌が見ることはできない。つまり、防犯カメラは、リアルタイムで車内状況を把握するために設置されたものではなかったのだ。
今回、関東・関西圏を走る主な14の鉄道会社に車内防犯カメラの設置状況についてアンケートを行ったところ、京王電鉄だけでなく、多くの鉄道会社もほぼ同様な状況であることがわかった。
■ほとんどが「録画専用」の防犯カメラ
現在、車内防犯カメラの設置がもっとも進んでいる鉄道会社の1つがJR東日本だ。広報部の高野晃平さんによると、「お客様へのサービスの向上を目的として、首都圏を走行する列車には100%防犯カメラがついています」。