もう一つあってね、その彼が無所属で立候補して断トツで当選した時、自民党幹事長だった角栄のもとへあいさつに行った。すると、背広のポッケにねじ込んで入れるほど、何百万円ものご祝儀をもらったそうだ。
でも彼は、福田派に入ると決めていたからね。福田はといえば、歓迎してごちそうしてもてなした。彼としては、ごちそうよりも金のほうが欲しかったそうだが、一銭もくれなかったという。本当に角福の2人は対照的だよね。
福田赳夫という政治家はことごとく、金権政治が嫌いなのね。
また、角栄が著した『日本列島改造論』については、だめだと主張していた。やはり、無理やりに日本が豊かになるのはよくない、と言うんだね。日本は、世界から期待されるような“機関車”になるべきだと。福田は(日本が内需拡大策で世界経済を牽引=けんいんする)「日本機関車論」を受け入れ、米国の求めに応えた。
ところが、現職首相だった1978年。自民党総裁選で党員・党友による予備選が実施されると、大平正芳にまさかの敗北を喫し、本選を辞退してしまう。角栄率いる田中派が大平を応援したため、負けてしまった。
予備選では絶対に1位となるはずだと思っていたから、普通だったら満足できるわけがない。それでも福田は、結果だから従わなくちゃしょうがない、と考えるんだね。この辺りが福田の面白いところ。「冗談じゃない」と怒ったり、抵抗したりしないのね。「天の声にも変な声がたまにはある」と記者会見で語っていたよね。
首相を辞めてから直接、会ったことがある。あの総裁選では勝てるはずだったのに大平に負けた。だから僕も改めて、「何であの時、怒らなかったのか」と聞いた。そうしたら、「怒ったってしょうがないじゃないですか……」と答えた。
◆安倍政権退陣で口説かれ首相に
その息子である康夫という政治家は、野心が全くない人間だね。だってもともと、総理大臣なんてやろうとも思っていなかったのだから。