放送作家・鈴木おさむさんが、今を生きる同世代の方々におくる連載『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は、M-1グランプリで優勝した「錦鯉」について。
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2021年のM-1グランプリで「錦鯉」が優勝した。結成は2012年なのだが、二人の年齢はツッコミの渡辺隆さんが43歳、ボケの長谷川雅紀さんがなんと50歳。僕は49歳なので、自分より年上の人が優勝したのは初めての感覚。
コンビとしては15年以下だからM-1に出られるが、長谷川さんの芸歴は27年近くになるのである。
長谷川さんは年を取るごとに奥歯が一本ずつ抜け落ちていて、食べ物が奥歯で噛めないとか、なんだか久々に昭和の芸人さんみたいなエピソードを持っている。
去年のM-1では、準決勝でかなりウケたと噂は聞いていたのだが、本選では大爆発にはならなかった。が、テレビに出演することも増えた。でも、その頃は視聴者の中で、長谷川さんのそんなエピソードに対して笑えるという人とそうでない人がいたと思う。
わかりやすい成功はそれを変える。今回のM-1の優勝によって、人間としてのダメすぎる逸話もたくさんの人が見て笑える話に変換されることだろう。
今の日本のエンタメにおいて、一夜でこれほどの人生を変えることのある番組ってM-1以外あるだろうか?
錦鯉は昨年のM-1以来テレビ出演も増えたが、その前は、おそらく、収入的にもかなりしんどかったはずである。長谷川さんは30年近くのバイト経験があるのだとか。
よくここまで成功を夢見て芸人を続けてこれたなと感心する。
宝くじを買わないと当たらないのと同じように、芸人は続けてないと売れない。運よくデビューしてすぐに露出が増えて売れる人もいる。コツコツ努力を重ねて、10年以上かけて売れていく人もいる。もっと続けても売れない人もいる。だけど、辞めたらそこまでがリセットする。だから辞められない。