それはなぜなのか。平穏な世界が70年以上続いたものの、ふたたび不穏で「鬱陶しい」空気になってきているからだ、と加藤さんは嘆く。ロシアによるウクライナ侵攻だ。

「第2次世界大戦終戦後、世界中が新しい時代を迎えねばと理想に突き抜けようとしました。でもその理想に対する弾圧が今また行われている。この七十余年を生き、老後を迎えて一人になったとき、若い世代にその理想を手渡せなかった悔しさはあります」

 とはいえ、暗い世もあるけれど、そうした時代を知っている世代だからこそ、「生きることを楽しむ」「ワクワク、ドキドキを感じる」ことが今は一番大事だと話す。

「みんなで飲んだり食べたりしていれば、おいしいものはこんなにたくさんあるんだとか、こんなに素敵な音楽があるとか、素晴らしい経験を遠慮などせずにいっぱい話してほしい。若い人がまだ知らない経験をたくさんしているのだから」

 長引くコロナ禍で、死について考えもめぐらせた。

「死後の練習をしているみたいで淋しかったです。死んだらきっと、娘にこう言いたいとか、いろんなことを思うだろうけど何もできない。死んだ人はみんな天国でこの気持ちを味わっているんだなと」

 少し娘と距離を置かざるを得ない状況になったことで、言いたいこと、伝えたいことを整理しようと考えるようになったという。

 3年過ぎて、もうそんなのはいやだと思う。今を思うままに生きなければ、悔いが残る。肩身の狭さや動きにくさを感じる同世代に向けて、こうエールを送る。

「生きづらさを感じている若い人たちに、もっと喜びを知ってほしい! 人生は天井が抜けるほど楽しくなきゃいけない。破天荒な喜びを取り戻して人生を謳歌してほしい。それを伝えられるのは私たち世代の役割じゃないですか」

■格好よく颯爽とヒールの強さを

 この2、3年で日本の人口のボリューム層である団塊の世代は、75歳以上の後期高齢者となる。これまで数々の印象的なメッセージの企業広告を出してきた宝島社は年始、「団塊は最後までヒールが似合う。」とする広告を全国紙などに掲載した。

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