本誌で「コンセント抜いたか」を連載する作家の嵐山光三郎さん(81)は「老いていく自分が面白い」と笑い飛ばす。
「同年代が集まると病気の話や墓の話ばかりで、これじゃ面白くない。若いときにできていたことが今できなくなっていることを、もっと面白がらないと楽しくないね」
かつては鮮やかに上段まで伸びた空手の回し蹴りができなくなった。腰あたりまで上がれば上々。むろん、今や鉄棒で逆上がりはできない。もはや立っているだけで運動。そんな自分が面白いと嵐山さんは言う。
「知らなかった、わからなかったことを知る。人は老いていくというのをまさに体験できている、という発見だね」
記者が話を聞いたのは、嵐山さんが散歩中のことだった。ある目標があって、体力をつけるべく鍛えているのだという。
「アフリカの砂漠に旅に行きたくてね。自分の体の老いを確認する旅になるかなあ」
80歳を超えて、遠くアフリカの、しかも砂漠を旅したいという人が世間にどれだけいるだろうか。まさに「枯れてたまるか!」の精神。まだまだ若く、気力も十分に見える。
とはいえ、嵐山さんも自身の老いにショックを受けたことがあるようだ。20年前、嵐山さんがまだ60代のとき、スポーツ観戦のために韓国に行った。
「ソウルだったか大邱だったか、地下鉄に乗っていたら、そばで座っていた若者が声をかけてきた。金髪にピアス、タトゥー満載の男だよ。因縁でもつけられるのかと思ったら、席を譲ってくれた。儒教の国だから自然と年配者に優しいんだね。日本じゃ見られない光景だったのと、私も老人かと思わされたのでショックだった(笑)」
■ほどよくグレて若者とバトルを
嵐山さんは自宅から事務所まで電車で通うが、トレーニングも兼ねて車内では立っていることが多いという。日本の若者はあまり席を譲ってくれないという。
「気づかないふりをされたり、寝たふりをされたりして、こんちくしょうって思うけど、譲られてもこんちくしょうと思う(笑)。そういう自分の心の動きも面白いよね」