──「LOVE & PEACE」には、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に向けての思いも込めた。
去年の一番大きなニュースの一つであるウクライナ侵攻について、音楽番組でどう伝えるかというのはすごく難しかったですが、そこに賛同してくれるアーティストもいました。
今の音楽番組では、あまり使わない言葉ですよね。でも、1960年代から言われてきたこの言葉をあえて掲げて、音楽が伝えてきた平和の尊さや愛というメッセージを再確認する紅白にしたかった。
■紅白は「時代の絵巻物」
今回の紅白には、軍事侵攻など世界中で起きている悲しい出来事を受けて歌を作ったアーティストが2組出ています。一人はMISIAさんで、「希望のうた」という楽曲をNYに暮らす矢野顕子さんに依頼して作ったそうです。
そしてもう一人は桑田佳祐さんで、佐野元春さん、世良公則さん、Charさん、野口五郎さんという同級生4人と一緒に「時代遅れのRock’n’Roll Band」という曲を作った。「この頃『平和』という文字が朧げに霞んで見えるんだ」という歌詞で始まる曲ですが、この曲に込めた思いやシンガー・ソングライターが果たすべき役割についての話を桑田さんから聞いて、「LOVE & PEACE」のテーマを思いついたと言っても過言ではありません。
紅白は一見お祭りに見えるのですが、時代の絵巻物だと思っています。2022年は桑田さんのようなアーティストが平和への思いを新しい作品に込めた年でもあり、そこにあるメッセージを届けずしてどうする、と思ったんです。なので、何がなんでも桑田さんには出ていただきたかった。ご出演いただけて本当によかったです。
──今年の大みそかには、第74回紅白歌合戦が控えている。どんな紅白であってほしいかを問いかけると、やはり数字への思いが返ってきた。
デジタルであれ放送であれ、より多くの人に見てもらえたという結果を追求していかないとダメだと思います。視聴率が下がっても、デジタルが劇的に伸びる可能性もあります。紅白を楽しんだと思う人が減っていくようなら、その使命は終わりに近づいていきますから。
テレビだけではない楽しみ方ができるだけに、何が結果なのか、時折わからなくもなります。ただ、今回は少し上向いたという手応えはあるので、視聴者の紅白への期待を裏切らないということを忘れずにあってほしい。
次もチーフプロデューサーをやりたいか、ですか? サラリーマンなので、やれって言われたらやりますけど、言われないと思います。もういいですよ(笑)。
(構成/編集部・福井しほ)
>>【前編の記事】紅白「終わるかもしれない危機感あった」 NHKチーフプロデューサーが明かした数字への思い
※AERA 2023年1月30日号より抜粋