大島真寿美(おおしまますみ)/ 1962年、名古屋市生まれ。92年「春の手品師」で文學界新人賞を受賞しデビュー。2019年『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』で直木賞受賞。その他の著書に『戦友の恋』『それでも彼女は歩きつづける』『空に牡丹』など。(撮影/写真映像部・高野楓菜)
大島真寿美(おおしまますみ)/ 1962年、名古屋市生まれ。92年「春の手品師」で文學界新人賞を受賞しデビュー。2019年『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』で直木賞受賞。その他の著書に『戦友の恋』『それでも彼女は歩きつづける』『空に牡丹』など。(撮影/写真映像部・高野楓菜)
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「ここ数年、江戸時代の道頓堀界隈に脳内トリップをしたままでした」

 直木賞受賞作となった『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』や『結 妹背山婦女庭訓 波模様』の執筆で、江戸時代から頭が離れなかったと作家・大島真寿美さんは言う。ところが、『結』を書き終えると、不意に頭の中から江戸時代が消えてなくなっていた。

「現代に戻ってきたら、世の中はコロナ、コロナの真っ只中。現代を舞台に書くとしたら、『コロナの今を書くしかない、この世界をきちんと描きたい』と思ったんです」

 小説の具体的なアイデアもないまま、「とりあえずワイナリーに行きたい」と2021年3月ごろに山梨のワイナリーを訪れた。これが図に当たった。初日は、案内されるまま、葡萄畑を見せてもらったり、ワイナリーを見学したり。夜は傑作ワインをしこたま飲みながら話を聞いた。そしてその晩、不思議なことが起こった。

「眠りについた途端、この小説世界がいきなり夢の中に現れたんです。小説の登場人物たちがどんどん頭の中の私に話しかけてきた。今なら絶対書けると思いました」

 その新作『たとえば、葡萄』(小学館 1980円・税込み)は、28歳の美月が主人公。実は、15年ほど前に書いた『虹色天気雨』『ビターシュガー 虹色天気雨2』に登場した女の子だ。

「小説って不思議なんですよ。生まれる時には生まれてしまうんです。15年経って続編を書くなんて、普通はない。私自身、『虹色』の続編は書くことなく終わってしまいそうだと思ってましたから。それなのに、『今書くんだ』と自分でもびっくり。でも、書いていると、本当にキャラクターたちがその人なりの15年を生きていた。何年経とうと私が生み出した世界にみんながずっと存在している。それがすごく驚きでしたが、腑に落ちた。初めての経験でした」

 物語は、成長した美月が唐突に大企業を辞めて、母の友人・市子の家へ転がり込むところから始まる。前作のヒロイン市子をはじめ、個性的な大人たちに囲まれて生活するうちに、美月は本当にやりたいことを見つけて夢に向かって歩み出す。

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