藤原さんいわく対象と接触して意識の交換をし、常に自分は変化していく。その変化の過程がこの50年間だと話す。常に変化することで撮影の方法も機材も異なってくる。
「インドで撮ったカメラのフォーマット、簡単に言うとカメラやレンズをアメリカに持っていっても合うかどうかわかりません。だから35ミリから、4×5(シノゴ)、8×10(エイトバイテン)と全部持っていきます。それで旅をしながら、ここはこのフォーマットが合うなど、徐々に見つけていくのです」
と撮影の方法を明かしてくれた。
よく知られたインドの写真は35ミリのカメラに28ミリのレンズが合うと考え、それだけで撮影を続けた。
こうして撮影された藤原さんの写真には“動き”がある。そこに写る人々は今にも動き出しそうで、私たちに語りかけてくる。
「写真に動きを感じるのは、撮っている人間が写真の中にいるからだと思います。自分のフォーマットを相手(撮影対象)に押し付けると意外とそこに撮影者は写っていないんです」
自分を消して撮影すると、被写体の意志や気持ちが写るとも話す。例えば、頑なに自分を持っていると、その人の中に入っていけず、その人の気持ちがわからないのと同じ。だから藤原さんは撮影をしているときは「消える」そうだ。
「消そうと思っているわけではないんですけどね。現場に入ると消えてしまうんです」
さらに、どのように撮ろうとかの考えを消すと見えてくるものがあると強く話す。
■被写体が自然に撮らせてくれる
「そもそも、僕はこういうものを撮りたいから撮るのではなく、向こうが撮らせてくれるのです」
ユリの花を撮っていたときのことだ。藤原さんがカメラを構えたとき、一匹のバッタがユリの花に飛んできて、ファインダーの中に収まった。迷わず藤原さんはシャッターを切った。
「これはね、バッタが撮ってくれって飛んできたわけです。僕はバッタが来たらいいなとか何も考えていない。でもそこにバッタが来たから撮影しました」