藤原新也さん
藤原新也さん
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 写真、文筆、絵画、書とあらゆるメディアで50年以上にわたり表現活動をし、社会に大きな影響を与えてきた藤原新也。現在開催中の個展のタイトルは「祈り」。いったい何を意味するのか。

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 藤原新也さんは、『インド放浪』『東京漂流』などで社会に強烈なインパクトを与えてきた。写真家、画家、書家などとして、目に映る世の動きについて独特の表現をしてきた。インドを皮切りにアジア各地で撮影された初期の作品から、コロナで無人となった街など250点以上の写真や本展のために書き下ろされた文章などの作品群の展覧会が世田谷美術館(東京都世田谷区)で1月29日まで開催されている。

 その展覧会の名は「祈り・藤原新也」。「祈り」は何を意味するのか。

「4年くらい前かな、インドへ行ったとき、小さな伝馬船を雇ってガンジス川に出たのです。岸辺に夜の明かりが残り、船を操るおじさん越しにガンジスを撮ったとき、『祈り』という言葉がスッと降りてきた。その写真に『祈り』というタイトルをつけたらピッタリだったのです」

「祈りの軌跡」にしようとも考えた。しかし「軌跡」はいらないと思い直し、「祈り」となった。

「昔のことを振り返るのは好きじゃないんでね」

 藤原さんは続ける。回顧展の話は以前からあったが、そういう気持ちもあり逡巡していた。どうしようかと考え続け、行き着いた結論が「祈り」であった。「祈り」という言葉を通して、過去の作品を見ると共通項が浮かび上がってきたのだ。

「昔の作品も言葉によって蘇ることを知りました。言葉の力を感じましたね」

 藤原さんにとって写真を撮ることは、そのまま「祈り」につながるのだろうか。一体何を狙って撮影しているのだろう。

「撮影するときは自分が『主』ではなく、対象が『主』です。写真家は自分のスタイルを対象に当てはめる場合がほとんど。でも、僕の場合は対象が変わることで自分もどんどん変わる。対象があって自分がある。だから撮るのではなく、撮らせてもらっているという感じですね」

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