ポンド安は政策不信がもたらしている。トラス新首相とクワーテン新財務相が打ち出した「ミニ」補正予算が投資家の大いなる不信感を買ったのである。

「ミニ」と言いながら、金持ち向けの大減税が盛り込まれた。燃料価格の値上がりを抑え込むべく、補助金政策も打ち出された。低所得層へのサポートも強化する対応が打たれた。しかも、これら一連の政策の財源は国債発行で手当てするのだという。

 その後に一部見直しが行われたが、この放漫財政に絶句して、投資家たちが英国債売りとポンド売りに乗り出した。英国債の利回りは、低価格・高利回りが常態のイタリア国債並みの水準に跳ね上がってしまった。国債の値崩れで年金基金たちが財政危機に陥った。そこで、イングランド銀行がもうやめると言っていた国債の買い支えを再開した。政策が支離滅裂化している。ポンド安は当然だ。経済は素直だ。経済は怖い。素直だから怖いのである。日英の政策責任者たちは、このことをよくよく噛み締めなければならない。

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

AERA 2022年10月24日号

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