経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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日本の円安受難が続いているが、英国も同病相憐(あわ)れむだ。ポンド売りが続いている。相場が落ち着いてこなければ、ついに1ポンド=1ドルの床を突き破るかもしれない。ポンドが1ドル割れするということになれば、それは一大歴史的瞬間だ。
1ポンドでは1ドルを買えない。かつての通貨の王様にとって、これは衝撃的屈辱だ。大英帝国時代の輝きは失って誠に久しい。だが、それでも、その名残(なごり)が微かに残っていたからこそ、1ポンドは1ドルよりも価値が高いという状態が今まで続いてきた。それもついに一巻の終わりか。
日本と英国が同病相憐れむ状態にあるのは、単に自国通貨の下落が続いているからだけではない。円安もポンド安も当然の流れだ。市場が投機筋に攪乱(かくらん)されていたり、外生的なショックに翻弄(ほんろう)されているわけではない。
円安は日米金利差の拡大と日本の経常黒字の縮減がもたらしている。内外金利差が自国に不利な関係にある。対外収支が自国通貨売りをもたらすポジションにある。このような通貨の為替相場が下落するのは、自然体だ。自然体相場の流れを介入で変えようとするのは邪道だ。