ジャーナリストの田原総一朗氏は、主体的な安全保障の構築について訴える。
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先日、日本の安全保障について議論を交わす機会があり、私の主張に対して反対意見をいただいた。
憲法と自衛隊は大矛盾している。だから、鳩山一郎や岸信介は憲法改正を主張したが、池田勇人以後は、憲法改正を大きく主張せず、これは国民をだましている。ケシカランことだ、と1971年秋に、自民党の代表的なハト派である宮沢喜一氏に言った。そのときの氏の説明にすっかり感動した……といったことを話したところ、それは過去のことで、現在はまったく通用しない、というのである。
宮沢氏は、安全保障を主体的に構築することは危険なので、米国に委ねることにした、と説明した。先の戦争では安全保障を主体的に構築しようとして、軍部が突出して、米英と戦わなければならなくなってしまった。その後、日本は経済に全力を投入することで、戦争に巻き込まれることがなかった。
たしかに、今や米国の経済は悪化し、オバマ大統領は「米国は世界の警察をやめた」と宣言、トランプ大統領は「世界のことはどうでもよい。米国さえよければよいのだ」と言い切った。第2次世界大戦後、米国が掲げてきた、世界の平和は米国が守るというパックス・アメリカーナを実質的に放棄したのである。
私は2020年5月、安倍晋三首相(当時)に、日本も危険性はあるが、主体的に安全保障を構築せざるを得なくなったのではないかと問うた。安倍氏は、そのとおりだ、と答えたのだが、途中で体調を崩して辞任してしまった。
去年6月には、当時の菅義偉首相に同様の主張をしたが、コロナ対策が優先事項ということで、取り組むに至らず、辞任してしまった。
そして、岸田文雄首相である。岸田氏は宏池会のリーダーであり、宏池会は池田、宮沢以来、自民党の中で最もリベラルの会派である。安倍氏が14年に、集団的自衛権の行使容認に踏み切ったときも、慎重派だったはずである。