林 累計で2020万部も売れて、国民的コミックと言われてますけど、私の世代、これを読まなかった人はいなかったと思うんですよ。
みつはし 私は高校を卒業してしばらくして、「美しい十代」という雑誌に「小さな恋のものがたり」を描き始めたんです。2ページを5年間連載したら、その雑誌が休刊になって、これで終わりだなと思ってたら、「ごほうびに本をつくってあげましょう」って言われて、5年間分をまとめて本にしてくれたんです。それから売れ始めたというか。
林 「美しい十代」が廃刊になったあとは、どこで連載なさってたんですか。
みつはし 「女学生ロマン」「フェアレディ」「レモン」……。あちこち渡り歩いてるんですよ。私には幸運の女神がついているみたい。最初に売り込みに行ったときも、編集長には「どこがおもしろいの?」って突っ返されたんですけど、ちょうどそのとき通りかかった偉い方が「これは傑作だ。来月から連載しよう」と言ってくださって。
林 あのころの女学生って、いまみたいにすぐデートしたりしないで、手紙を出したり、そっと彼の野球の練習を見に行ったりして、みんな「チッチは私だ」と思ってたんじゃないですかね。
みつはし そうですね。全く美人でもない小さな女の子が、長身でハンサムで女の子たちのあこがれの的のようなサリーと恋をするなんて信じられない、と思いながら一方、みんなチッチが自分のことのように思われて夢中になったのでしょうね。
林 あのころ女性の漫画家っていうと、わたなべまさこ先生とか水野英子先生とか、そのあと里中満智子さんとか非常に実力がある女性の漫画家が出てきて……。
みつはし みんなストーリー漫画ですよね。
林 お屋敷に住んでる美少女という感じの主人公でしたけど、「チッチとサリー」は、スケッチ風でほのぼのとした、恋の核心を突く4コマ漫画でしたよね。
みつはし そう。美少女でなくても恋の主人公になれるって、自分の人生の主人公はみんな自分よ、というつもりで描いてました。