たまにしか演じない「中」。正直、あまり進んでは演りたくない。時間の制限もあるが、噺に精力を吸い取られるような気がするのだ。喋っていると疲れ方が凄い。でもこの「中」を演るのと演らないのとでは、この後に二人が復縁する「下」への気持ちの入り方がまるで違う。いつもは楽屋でヘラヘラしている私も『子別れ・中』を控えている時はどうも無口になりがち。
楽屋で私が「弔い」に行く支度をしていると、テレビでもウェストミンスター寺院での『国葬』が映し出されていた。奇しくもロンドンと上野でシンクロ。荘厳な光景をじっと見つめていると、エリザベス女王は勿論、その場に居合わせている一人一人の人生を想像し、聞いてみたくなってきた。「今まで何があって、今そこに貴方はいるのか?」と。そして伝えたい、「くれぐれも岡場所に居続けたりせず、真っ直ぐおかみさんの所に帰りましょう」と。
その日の『子別れ』は演ってみたら70分あった。今までで最長だ。これはみな国葬のせい、だと思っている。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!
※週刊朝日 2022年10月14・21日合併号