
妊娠前後には主に次の二つの支援がある。
一つめは保健所の組織「家族計画センター」だ。ここでは無料で相談でき、婦人科検診や避妊薬処方を行う。フランスの保健・予防省によると、成人の12%が未成年のときに継続的な暴力の被害を経験しており、過去の被害経験についてもケアをする。被暴力経験のある女性は自尊心が低く、望まない性交渉にも応じてしまう傾向があるため、自尊心が回復し、望んだタイミングで赤ちゃんを迎えられるようケアする。中絶にパートナーや保護者の同意サインは不要で薬による方法が優先される。
二つめは、国は産科に対し妊娠初期に社会面・心理面の面談をするよう義務づけている。悩みを抱えた女性は専門の無料相談機関を紹介され、出産後も継続してサポートを受けられる。
■出自情報は国が管理
匿名出産では、母親が提出した出自情報を国の機関が保管。赤ちゃんが将来希望した場合、個人を特定する情報は母親の同意を得て提供する。問い合わせの半数は生まれたときの状況など自身の悩みを解決する手がかりを探しており、生みの親の特定までは望まないという。
自身の出自情報の開示を求める人は5%程度。出自開示を求める人には心理士がつき、このプロセスが前向きな経験となるよう支える。
安發さんの講演は、妊娠女性をケアすることは子どもを大切にすることと矛盾せず、双方の幸福につながるのだと私たちに気づかせてくれた。講演終了後、伊藤さんに内密出産法の整備について、改めて思いを聞いた。
「内密出産だけでなく包括的な支援の仕組みが大事だとつくづく思いました。大きな枠組みを一からつくることは簡単ではないけれど、具体的に進められるところから進めていきます」
近く、内密出産法成立をめざす超党派議連を発足予定だ。
(ノンフィクションライター・三宅玲子)
※AERA 2022年10月3日号