石フェス会場には「石の交換箱」が設けられていた。お気に入りの石を持ってきて、箱の中の石と取り替えっこ。誰かのお気に入りとなって、石の旅は続く(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
石フェス会場には「石の交換箱」が設けられていた。お気に入りの石を持ってきて、箱の中の石と取り替えっこ。誰かのお気に入りとなって、石の旅は続く(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

 ところが石ころの場合は価値はない。正確にいえば、拾った当人にとっては価値があるものかもしれないが、一般に共通する市場価値はない。

 宮田さんが拾うのはあくまで「触ってちょうどよくて、いい感じのもの」。どんな種類の石で、どれほどの希少性があるか。そうした情報には目を向けない。

「面白いんだろうけど逆に目が曇っちゃうような気がして。一撃の感動が薄まりそうだから、調べないようにしてる」(宮田さん)

「石の人」のお気に入り。上は珪化木と呼ばれる木の化石。下は「夜空の星のよう」。どちらも青森で採石。石日記をブログ「石と海」に掲載(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
「石の人」のお気に入り。上は珪化木と呼ばれる木の化石。下は「夜空の星のよう」。どちらも青森で採石。石日記をブログ「石と海」に掲載(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

■今年からブーム実感

 石ころは石ころでも、「いい感じの石ころ」となるとどこにでも転がっているものではないらしい。この海岸にいい石があった、あの海岸はもう拾われ尽くされている……そんな情報交換を来場者たちと交わしていた。

 宮田さんと熱い石トークを繰り広げていたのは、愛知県から来たデザイナーの男性。石を拾うようになったきっかけは、同じ事務所のデザイナーが地元の海で拾った石を持ってきたこと。子どもの頃に石を拾っていた記憶が蘇り、石が好きだったことを思い出したという。以来、「石の人」を名乗り、ブログ「石と海」やSNSで発信している。

 石拾いの旅は一人で行くことも多いが、仲間と行くこともある。そんな時は宿に戻ってからそれぞれが拾った石を披露しあう。酒を飲みながら、これがいい、ここがいいと品評会をする時間が「めちゃくちゃ楽しい」。

「海岸では、埋もれて周囲に溶け込んでいた石が、持って帰ってくると1個の石という存在になる。海で見たときとは全然印象が違って見えるんです」

 今年になってSNSのフォロワーや問い合わせが増え、ブームを実感している。「売ってほしい」という問い合わせもあるが、拾った石そのものを売ることは現時点では考えていない。自分で拾って、自分で集めて、自分で楽しむ、それが醍醐味だと思っているからだ。

 石の人にとって、「いい感じの石ころ」とはどんなものか。そう聞くと明快な答えが返ってきた。

「1に形、2に色味、3に展開。あとは触り心地と密度です」

 展開とは表から裏への模様の広がりのことで、密度とは、石の大きさに対して重さがあること。ぎゅっと詰まった感じがするものが密度が高いのだそう。

 波打ち際で拾ったときなど石が濡れた状態だとより魅力的に見えるため、乾いた状態で確かめることも忘れてはいけない。(編集部・高橋有紀)

AERA 2022年10月3日号より抜粋

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