2年前、個別の小ミーティング後の雑談では「ブラック・ライブズ・マター」の活動が話題となり、同僚たちから黒人支援の声が多数出た。
それと比べると「中絶問題」を雑談で語る同僚はごくわずかだ。多くの男性にとって中絶問題は、自分ごとではないようだとアルトさんは歯がゆく感じてきた。
「でも、この先、同性婚の権利が剥奪されてしまう可能性や、個人が避妊する権利が制限されるような可能性があれば、男性の多くは、もう無視できなくなる。だが、その時に気付いてももう遅いんだ」
アルトさんは、自身が中絶擁護デモに参加し、女性たちと共に声を上げることで、中絶問題を他人事と捉えがちだった男性たちに、自分たちにも火の粉が降りかかるかもしれない、という危機感を感じてもらえれば、と思っている。
アルトさんのガールフレンドのジェニー・エリスさんはこうつぶやいた。
「男性たちは、女性の発言よりも、同性である男性の発言により耳を傾ける傾向がより強いだろうしね」
「耳が痛い指摘だけど、残念ながらその通りかも」とアルトさん。「とにかく、11月の中間選挙の投票で結果を出すためにも、今みんなで声を上げなくちゃ」と語る。
長髪のアルトさんは、カラフルな色のTシャツを着て、「上質な男は、平等を恐れない」とカラーペンで書いたプラカードを持ち、砂浜を数時間行進し続けていた。「クオリティ」と「イクオリティー」の2語がさりげなく韻を踏んでいる。
その同じ週に、ロサンゼルス市庁舎前で行われた中絶擁護デモに参加していたリッチー・グランサムさんは、大手医療保険会社で働く46歳の白人男性だ。
彼は南部のジョージア州で生まれ育った。同州は「バイブルベルト」と呼ばれ、キリスト教保守派の勢力が強い土地だ。
中絶合憲が覆された6月24日にジョージア州に住む母から彼に電話があった。
「今日からは、罪のない胎児が殺されなくて済むのね。本当に良かった」と母は喜んでいた。