「自分の身体のことは、自分で決める。その権利を奪わないで」
【写真】LAで中絶擁護デモに参加したリッチー・グランサムさん
そんな声を上げながら、サンタモニカの海岸の砂浜を、数千人の女性たちがデモ行進していた。海岸には筋トレやサーフィン、スケートボードなどを楽しむ人々がひしめき、デモ隊を注目している。
中絶する権利の擁護を訴えて行進する多数の女性たちに混じって歩いているのは、白人男性のパトリック・アルトさんだ。彼は、データマッピング専門のソフトウェア会社で働く34歳のコンピュータ・エンジニアだ。
今年6月24日に、米最高裁の保守派判事たちが「中絶合憲」を覆す決定を出し、全米に衝撃が走った。
アルトさんはその夜、手製のプラカードを作り、一緒に暮らすガールフレンドと共に、ロサンゼルスのダウンタウンでの中絶擁護デモに駆けつけた。それ以降、カリフォルニア州各地で開催される中絶擁護デモの日程を調べ、ほぼ毎週参加している。アルトさんはこう言う。
「中絶する権利が、全米の半数近くの州で次々と剥奪されている。このとんでもない時代錯誤なクレイジーな事態は、残念ながら、これだけでは終わらないだろう」
アルトさんが現在危惧しているのは「中絶合憲」が覆されたことが契機となり、ドミノ倒しのように、憲法上で認められている権利が次々に覆されていく可能性だ。
彼はこう断言する。
「最高裁の保守派判事たちが次に狙っているのは、ズバリ、同性婚の権利を違憲にすることだ。その次は、ひとびとが避妊にアクセスする権利をあの手この手で制限しようとするはず。今のうちにその流れを何とか食い止めなければ」
アルトさんが働くソフトウェア業界では、コンピュータ・エンジニアの大多数が男性だ。社内のミーティングの雑談では、政治の話はかつてほとんど出たことはなかった。高賃金が約束された専門職の彼らにとって、社内で政治的な発言をしないことは、ほぼ暗黙の了解とされていた。
だが、コロナ禍で自宅勤務が主となったこの数年間、ミーティングがオンラインで行われるようになると、それが少し変容した。