慶應義塾大学教職課程センターの鹿毛雅治教授はこう話す。
「意欲的に学ぶかどうかを子ども本人の問題にしていいのかと疑問があります。もともと国語への関心が高いなど、子の特性による違いはありますが、授業がおもしろければ意欲は自然と上がりますし、少なくとも半分は教育する側の問題といえます。意欲や態度を、子どもを評価する基準にしていいのでしょうか」
また、塾や親に言われ、内申点獲得のために努力することは「外発的動機」のため、主体的に学ぶ子を育むという本来の教育目標ともずれてくる。
「成績を高めることや、良い学校に行くことが目的の勉強は自尊心のための勉強。今年の東大入試で起きたような少年の(刺傷)事件はまさにこれでしょう。外発的な動機付けで育つと自尊心の低下を招く恐れもあります」(鹿毛さん)
■教科以外の点数化中止
教育的意味の薄い外発的動機による“見せやる気”。神奈川県は過去に、部活動の部長や生徒会長、県大会出場などの実績を点数化し、調査書点として合否判定に用いていたが、点数化をやめた歴史を持つ。公立高校入試に詳しい一般財団法人神奈川県高等学校教育会館専務理事の馬鳥敦さんはこう説明する。
「調査書の教科以外の活動の点数化は、高校入試の公平・公正性からみて、課題が多かった。神奈川県ではその代替として、全員面接が導入されましたが、わずか10分間の面接で公平・公正な判断ができるか、引き続きの課題となりました」
同県で入学者の9割を募集する共通1次選考を見ると、進学重点校は内申点+学力検査+面接+特色検査の合計点で合否が決まる。特色検査とは、各校が独自に用意した試験問題のこと。東京都立の進学重点校もこの方式を取り入れているが、同県の場合、内申点と試験(学力検査)の案分も学校により異なる。
2024年度からは一律の面接を廃止する予定だ。面接に割り振られていた配点がどうなるのかは公表されておらず、内申と試験の各校ごとの案分も変化する可能性がある。
自治体により分かれる選抜方法。これだけの情報を子ども自身が自分で手に入れるのは難しい。情報収集のサポートが受けられるか否かさえも合否に関わる時代に突入している。(フリーランス記者・宮本さおり)
※AERA 2022年9月19日号より抜粋