AERA 2022年9月19日号より
AERA 2022年9月19日号より

 野球部に入りたいけど道具を買うお金がない。東京の大学に進学したかったけれど、地元の県立大学に入った。あちこちで選択の幅が狭まりつつある。この現実は、若い世代に影を落とす。

■子どもは考えられない

 都内の出版社で働く男性(29)の給与年収は約400万円。それとは別に、仕事の合間にフリーライターとして働いて得られる収入が年間約50万円だ。手取りは25万円ほど。家賃6万円の部屋で一人暮らしをしている。

結婚できるのかな、と。30歳くらいで、もう少し収入があって結婚するものだと思っていたのに。子どものことは全く考えられない」

 九州で生まれ、父の仕事の都合で小学生のときに米国へ渡り、約10年を過ごした。二つ下に妹がいて、母は専業主婦だ。海外駐在員の待遇がよかった時代でもあり、男性と妹は現地のプレスクールに通い、年1回はビジネスクラスに乗って一時帰国していたという。東京の有名私立大学に進み、興味のあったマスコミ業界に就職した。男性はぽつりと話す。

「時代が右肩下がりであることは知っているから、父と同じようにはいかないだろうけど、『そこそこ』でやっていけると思っていた。思ったよりも大人って稼げないですね」

 大学の同級生の中でも「稼いでいる」と感じる人は一握りで、

「激務だから、うらやましいとは思わない」

 すでに結婚し、子どもが生まれている友人の中には、親から生活費の援助を受けている人もいるという。男性は、

「中間層の脱落は、まさにそのとおりだと思う。貧困とまではいかないけれど、みんな生活に余裕がない」

(編集部・古田真梨子)

【記事の後編<<「大学進学のために塾に通いたい」と言えなかった コロナ禍で深まる中間層世帯の苦境>>に続く】

AERA 2022年9月19日号より抜粋

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