経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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近頃、盛んに嫌な言葉を見聞きする。「武器化」である。エネルギーの武器化。原材料の武器化。食料の武器化。次は何が武器化されるのか。
ロシアがウクライナに侵攻し、EU各国をはじめとする多くの西側諸国が対ロ経済制裁に乗り出した。これに対して、ロシアが資源・エネルギーの武器化大作戦で反撃している。攻撃の矢面に立たされているのが、特にドイツだ。ロシアとドイツの間は天然ガスパイプラインでつながっている。ノルドストリーム1だ。バルト海の下を走っている。この海底パイプラインを通じた天然ガスの供給が、事実上停止されている。
表向きは点検や不具合が理由にされている。だが、どうみても、これはラジカルな武器化作戦だ。ドイツを含めてEU諸国は、ロシアがエネルギーを人質に取って脅しをかけてきているとみている。脅迫には決して屈しない。今のところ、EU側はこの構えで結束している。いつまで持ちこたえられるか。持ちこたえてもらわなければならない。だが、冬が近づいてくる中で、状況は厳しい。たまりかねて、ウクライナにプーチン大統領に対する一定の譲歩を求めたりし始めないといい。