人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、「選択的夫婦別姓制度」について。
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憂鬱な秋である。安倍元首相の国葬もだが、なんともうなずけないのが、選択的夫婦別姓についての政府世論調査の結果である。
選択的夫婦別姓制度の導入に賛成は、二○一七年には42%だったのが、昨年は28%まで落ちたという。これは何か裏があるのではないかとかんぐるのが自然ではないか。
最高裁の判決ではもっと国会で議論することが求められ、稲田朋美さんをはじめ反対から賛成に転じる議員も増えて、少しずつだが、世の中に賛成の雰囲気が作られていた。あと少し、もう少しのところまで来て突然、賛成が急減したのは何があったのか。
その理由は、質問内容が変わったことにある。同姓制度を維持と、別姓制度の導入の間に「旧姓使用」が置かれ、同姓制度を続けながら「旧姓を通称として幅広く使うこともできるようにする法制度」を設けるという説明がついた。
いったい、どこが今までと変わったのか。何も変わっていない。旧姓を通称として使用することなど、働く女性、いや男性も多くがやっている。私も仕事をはじめ全ての場面で、戸籍名と別に通称として「下重」を使ってきた。
それを、法律が裏付けると一言入れることで印象を変えようという姑息な考えが透いてみえる。通称が保障されるならと安易に同意した人が多かったとみえる。
世論誘導につながると政府の中でも反対があったと聞くが、法務省は保守派に配慮して今までなかった一文を入れた。それによってなんとか別姓賛成のムードを抑えようとしたのか。その結果、旧姓使用が別姓を上まわった。意図的な質問だったと言わざるを得ない。
法務省よ、おまえもか。ある種の政治家たちの意見に配慮するなど、日本もずいぶん落ちたものだ。せっかく盛り上がっていたものに水を差し、なぜそうまでして反対するのか。選択的夫婦別姓を行っていない国など、主要国では日本しかないのに。