新入社員の意識は劇的に変わり、今までの日本企業流の育て方は通じなくなってきた。社会全体が抱える課題だ。AERA 2022年9月5日号の記事を紹介する。
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「退職したいのですが」
新人の社員から突然、こう切り出された都内の会社経営者は一瞬、状況をのみ込めなかったという。社員全員が顔見知りの小規模の会社。だが、この社長は「最近の若手社員は普段、何を考えているのか分からない」と悩みをこぼした。
社内コミュニケーションツールを扱う「gamba」(横浜市)のカスタマーサクセス部マネージャーの駒崎匠さん(29)は、企業の経営者や管理職に日々接してきた経験を踏まえ、コロナ禍以降の変化をこう指摘する。
「テレワークが増えたのに加え、出勤時も出先から直帰するケースが多くなり、職場で顔を合わせる機会が極端に減った会社が増えています。管理職は社員一人ひとりの能力と、それぞれが抱える負荷を把握できなければ適正な業務の割り振りもできません。とりわけ、新人には寄り添って指導する必要がありますが、どう声をかけていいのかも分からない、という声をよく聞くようになりました」
同社が手掛ける「日報アプリgamba!」は2020年以降、売り上げが増加。SNS形式の日報運用はSNSに慣れている若手社員の抵抗が少なく、新人教育の一環として導入する大手企業も増えているという。
■大企業にも危機感
「大企業も、自社で培ってきたスタイルだけでは人材を育てられていない、という危機感があると感じます」(駒崎さん)
人手不足の中、会社側が頭を抱えるのは若手の離職だ。厚生労働省の調査では、就職後3年以内の離職率は新規大卒就職者が約3割で推移している。
新人をどう育てるか。職場での若手と上司・先輩の関係を示す興味深いデータがある。
リクルートが今年3月、大企業(1千人以上規模)に在籍する入社3年目までの若手社員を対象に行った調査で、「職場で上司や先輩からどう呼ばれているか」との質問に、苗字や名前に「さん」を付けて呼ばれると回答した若手が8割近くに上った。ちなみに他は、「ちゃん」「くん」付け(26.6%)、呼び捨て(15.1%)、ニックネーム(11.9%)、役職名(10.6%)と続く。