1960年代、都民の足であった「都電」を撮り続けた鉄道写真家の諸河久さんに、貴重な写真とともに当時を振り返ってもらう連載「路面電車がみつめた50年前のTOKYO」。前回は路面電車の走行感を強調する鉄道写真の代表的なテクニックである「流し撮り」を紹介した。今回は特別編として、究極のテクニックである「露光間ズーム流し撮り」にスポットを当てた。
【本文に出てくる究極テクニック「露光間ズーム流し撮り」の写真はこちら(計5枚)】
「露光間ズーム流し撮り」では、流し撮りと露光間ズーム撮影(ズームレンズを使用した撮影時に、低速シャッター速度でシャッターが開いているうちにレンズをズーミングして焦点距離を変化させる撮影方法)を併用して、路面電車の走行感をより強調した作品表現ができる。そのノウハウを紹介する。
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単焦点レンズで路面電車を流し撮りすると、電車の側面(真横)を狙った場合は、電車の全体を写し止めることができるが、斜め前の角度からは電車の先頭部しか止まらない。同じ撮影条件でも、電車の後部まで止めて周囲は流れてくれる流し撮りが、ズームレンズにしかできない「露光間ズーム撮影」に「流し撮り」を併用した「露光間ズーム流し撮り(以下ズーム流し撮り)」のテクニックだ。
ズーム流し撮りのシャッター速度
まずは、海外ロケでズーム流し撮りした作品をご覧いただきたい。サンフランシスコ名物のケーブルカーがモチーフだ。撮影したのは1994年5月。厚い雲が太陽を遮る曇天となり、照度不足のためISO感度50のフィルムでは車両を写し止められなくなった。撮影意図を転換して、標準系の28~70mmズームレンズと、1/30秒のシャッター速度を選択してズーム流し撮りに挑んだ。失敗も懸念されたが、背景のビル街から飛び出すような走行感を強調することができた。
選択したシャッター速度が遅くなるほど周囲が流れ、走行感が強調されるのは流し撮りと同様だ。著者は1990年代に1/30秒や1/15秒のシャッター速度でズーム流し撮りを始めたが、なかなか結果が出なかった。最初は1/125秒前後のシャッター速度で練習し、練度が上がったらスローシャッター速度に挑戦することをお勧めする。
次の写真は岡山市内の路面電車ロケで、何気なくズーム流し撮りを応用した一コマ。夕暮れの中納言停留所を発車する東山行き路面電車を1/50秒のシャッター速度を選択して、ゆっくりしたズーム流し撮りで捉えた。背景の岡山名物吉備団子の広栄堂本店の店内照明が温かく流れてくれた。