■島外の子どもが遊びに
犬島と同じく、瀬戸内海に浮かぶ香川県の直島には、島のあちこちにアート作品がある。観光客が増え、移住者も増えた。一方の犬島は、20年前に70人以上いた人口が今年7月末現在、40人にまで減って、高齢化も進んでいる。島の40人のうち、6歳以下は4人。10代にいたっては0人だ(今年7月末時点の住民基本台帳に基づく)。
「実はオブジェを置いている公園は、地元の人から『ちびっこ広場』と呼ばれているそうなんです。でも、島の子どもはとても少なくて……。ただ、このオブジェを見に、島外から子どもたちが遊びに来てくれるようになりました。ゆくゆくは、子どももお年寄りも集まる、昔の長屋みたいな場所になったらうれしいと思っています。アートを通じて、人口減少や少子高齢化の解決を考えたいです」
■制作過程を住民と共有
制作過程を島の住民に共有しながら、一緒に作り上げた。
「大阪の工場で、発泡スチロールと鉄でオブジェの形を作って、樹脂でコーティングして頑丈にしてから、葉脈を意識しながら筆一本で塗り上げました。制作途中にはオンラインで犬島とつないで、『今、こうなってますよ』と伝えていました。島にオブジェを設置するときも、島の人たちが手伝いに来てくれました。最後は拍手してくれて、『こういう色鮮やかで元気になるアートがほしかったんじゃ』と言ってくださって」
犬島は、採石業や銅の精錬業で栄えた歴史があり、島内に見どころも多い。例えば精錬所は美術館になっているが、観光に来た人が美術館だけめぐって帰ってしまうこともあるといい、大宮さんは「ぜひ島内をめぐってほしい」という。
「歩いて1時間くらいで一周できる小さな島です。そぞろ歩きしてもらえるような作品をこれから点在させていく予定です。観光客や住んでいる方がそこに待ち合わせるような場所を作ります。その第1弾がこのオブジェです」
大宮さんの島内の好きなスポットを尋ねてみると、
「島の先端の方に歩いていくと、瀬戸内の海辺が広がってるんです。これがぼけーっとするのに、いい海なんですよね。自分と見つめ合えるというか、無になれる場所です。コンビニもないし、効率が悪くて、不便な島です。でも、都会とは時間の流れが違うから、不思議の国のアリスのような、時が止まった空間に来た気持ちになります」(大宮さん)
瀬戸内国際芸術祭2022は、春、夏、秋にそれぞれ会期があり、夏会期は8月5日から9月4日、秋会期は9月29日から11月6日に開催され、作品は会期終了後も設置される(編集部・井上有紀子)
※AERA 2022年8月29日号