イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 まず捕獲から逃れるため、蝉は今まで以上に飛行速度を増すでしょう。ぶつかると打ち身になるくらいのスピード。次に蝉に角が生えます。見た目の華が無いどころか、5、6本生えます。ヘラクレスオオアブラゼミです。また「噛む」ようになるでしょうね。カミキリムシみたいな牙で。肉がザックリと切れます。噛まれた子供は泣くでしょう。あとは毒は必須。蝉は噛む際にはこちらの体内に毒液を注入してきますし、怒ると毒液を含んだおしっこを空中から散布します。まぁ、その頃には体長が30センチくらいになっているでしょう。赤ん坊の頭を軽く掴んで飛び去るくらい容易いこと。身体が大きいのですから、鳴き声だって掘削工事の騒音並みの大きさで我々にストレスを与えてくるはずです。それが早朝から深夜まで半年間……これじゃおちおち河原でハーモニカの練習も出来ません。まさに人類の敵と言っても過言ではありませんが……なんか怖くなってきた。

 今、外でアブラゼミが鳴いています。声も揃わず、思い思いに。

 まだ彼らは自らの可能性に気づいてないようです。私も己を省みてこれからは謙虚に蝉と接していこうと思います。夏の彩りをありがとう、蝉。君の鳴き声は8月のシティポップ。いつまでも変わらぬ、そのままの蝉でいて。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!

週刊朝日  2022年9月2日号

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