落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「蝉」。
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調子が悪い時、蝉の声は身体にこたえます。ホントうるせえ。逆に自分が快調な時は「夏の彩り」。勝手なものです。「今年はあまり鳴かなくて、ちょっと寂しいね」とか、鳴いたら鳴いたで「暑苦しい」と評される蝉。人間(私)って蝉を軽んじすぎではないかと思うのです(希少種を除く)。特にアブラゼミ。蝉が舐められる要因として……見た目の華の無さ。地上での寿命の短さ。その割にめちゃくちゃな数の多さ。そして生きてる時に目一杯鳴こうという、儚さとはかけ離れた主張の強さ。でも蝉だって好きで鳴いてるわけじゃ無いはず。静かにしてたほうが長生き出来るんです、たぶん。限られた時間で子孫を残すために、地上に出たら直ぐに交尾。言わば、鳴きは秒で異性を探すマッチングアプリです。恋の作法も駆け引きも教わらないまま、大人になってすぐに繁殖という結果を出さなきゃいけない蝉。つらいね。
そもそも土の中に数年。地上で数日。ペース配分の偏りが酷すぎじゃないですか。これが就業シフトなら組合を作って蝉一丸、経営者側に団体交渉すべき案件です。全蝉が「俺たち、一分一秒でも長生きしようぜ!」とスクラムを組んだらどうなるのでしょう。ことによると、少しずつ少しずつ蝉の寿命が延びていくかもしれません。
もし蝉が半年もミンミン鳴いてたら、我々人類も今までの対応を改めねばなりません。若手噺家は蝉がやかましくて秋祭りの営業も出来ません。蝉の声にかき消され、屋外でビンゴの数を読み上げる声が客席まで届きません。そのうち「五月蝿え!」が「八月蝉え!」に変わるでしょうし、いよいよ人類は蝉を駆除すべく本気を出します。ならば蝉だって人間に対抗するために変化していくはず……。