それと、僕の趣味なんですが、病院に行くのが嫌いではないです。なぜかというと、常に自分の肉体の変化をチェックしたいために、簡単な検査をしたり、医師との会話を必要としています。自分という存在は謎です。特に肉体の存在は未知です。医療の知識によって解明されていく自分の肉体の変化に特に興味があります。僕が親しくしている玉川病院の名誉院長の中嶋先生は僕の絵のコレクターでもありますので、芸術と医療に関する話題を時間を忘れて語り合います。そういう意味では先生は僕の精神と肉体の鏡でもあります。他の先生とも親しくしますが、医師を友人に持つことも自分を知るためにも必要な気がします。

 コロナで病院への足も遠のきますが、僕はそれでも行きます。病院のレストランで食事をし、お茶を飲み、コンビニで雑誌やおやつを買って中庭でひと時を過ごします。普通じゃ行かないような、ちょっとした身体の異変でも僕は病院によく行きます。小児科と婦人科以外はほとんど診てもらっているように思います。また病院の待合室で患者さんたちの様子を観察するのも結構好きです。中にはうんと着飾ってくる患者さんもいます。僕も病院に行く時はオシャレをして行きます。それは病院に対してもそうですが、自らに対しても、清潔であることが社会的礼節のような気がするのです。

 また、僕は入院も、二、三年に一度、時には毎年一度くらいは入院しているような気がします。入院は異次元への参入のような気がして、なぜかワクワクしている自分が好きです。点滴や、嫌な検査は好きではないですが、入院する以上、多少の苦痛は伴います。入院と同時に病室をアトリエに変えて、いつでも絵が描ける環境にしてしまいます。自分を考えるためには環境を変えるのが一番です。そういう意味では入院は、非日常的な異次元体験の経験の場です。

 病気を利用して、病室の空間を創造の場に変えることで、自らを浄化させてしまいます。こうした効果を理解して、「絵画治療は考えてもいいですね」とおっしゃる先生もおられます。病気は病院と先生が治すと同時に、患者の積極的な治療への参画による、両者のコラボレーションではないかと思います。また、人間には自然治癒力があると信じて、他力も必要だけど自力の意志によって治してみせるというポジティブな気持ちが意外と早く治癒してくれることもあると思いますよ。

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰

週刊朝日  2022年9月2日号

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横尾忠則

横尾忠則

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。

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