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 芸術家として国内外で活躍する横尾忠則さんの連載「シン・老人のナイショ話」。今回は、健康法について。

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 本誌の読者の大半は高齢者で一番の関心事は健康だそうです。同じ高齢者の僕も全く同感です。今回はその健康について何か書いてくれますか、と担編の鮎川さんがアトリエにおそばとドラ焼きのお土産を持って、やってこられました。自転車で来られる、まあご近所さんてとこです。

 今日、現在の僕は膝(ひざ)がモーレツに痛く、立ったりしゃがんだりが一苦労です。ここ一年ばかり毎日100~150号大の絵を、立ったり、しゃがんだりしながら描いていたために痛んだ一種の生活習慣病かも知れませんが、商売道具の膝を痛めてしまうと、絵が描けなくなってしまいます。この膝は一カ月ほど前から兆候があったんですが、まあ老化現象ぐらいに軽く考えていましたが、アトリエまでの自転車通勤もままならなくなってしまいました。さらに、コロナ禍発生当時から息切れが激しく、歩行がきつくなっています。こんな満身創痍(そうい)の僕が健康を語る資格は毛頭ありませんが、日々気をつけている健康法の一番は睡眠です。風邪は万病のもとといいますが、僕は「不眠は万病のもと」と考えています。不眠が風邪を誘発したり、交感神経を高めてストレスを起こしたりして、身体の弱点にダメージを生じさせます。眠れない原因は神経が興奮していることが多いので、極力副交感神経を優位にする様々な方法を考えますが、やはり風呂で温めた身体が寝床で急速に冷えるタイミングに、海の底で死人の土左衛門になったイメージを浮かべて、死んだつもりになると、本当に死んだように眠ってしまうことがあります。一度試してみて下さい。

 次は食事と軽い運動です。食事は加齢と共に食事の量が減っていくので特に意識しなくてもいいように思います。ただし、創作エネルギーを必要とするために牛肉は沢山(たくさん)食べます。これは黒澤明さんと三島由紀夫さんから学びました。あとは好きなものを食べ、塩分の多いものをひかえるくらいです。運動は全くダメです。自転車通勤なので歩くこともなく、運動らしい運動といえばアトリエ内を裸足にワラ草履で、10~15分くらい、実際の風景をイメージして、今どこを歩いているかと想像しながらバーチャル散歩をしています。他に健康について、例えばサプリメントを飲んだり、ストレッチをするというようなこともないです。絵を中心とした動作が自然に運動を代行してくれているので、自分はアスリートだと想像することで安心しています。

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横尾忠則

横尾忠則

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。

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