こうして、平安初期から江戸期まで脈々と流れてきた700年の物語を柴橋は発見し、「歌枕」というかつて日本人の中に存在した精神世界を、展覧会として世に問うことができたのだ。
柴橋は、博士課程にいながらなかなか博士号がとれず、就職もできず、サントリー美術館に職を得たのが30歳になろうとしている時のことだった。現在39歳。
「どうしたらそこにいけるのか?」という問いに対する柴橋の答えはこうだ。「歌枕」はまさにそのためにある。「想像する力があれば、そこにいける」
想像する力があれば、か……。いいな。
私は柴橋の答えを聞きながら、ある一人の作家の旅のことを考えていた。
彼の旅も、その旅の後、50年近くたった今も人々に影響を与え続けている。
以下、次号。
下山 進(しもやま・すすむ)/ ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文藝春秋)など。
※週刊朝日 2022年9月2日号